かつて弾けたことが弾けなくなっている不安があるかもしれませんが、勇気を出して音を出してみましょう。
弓を張って、弓に松脂を塗って。長い間忘れていた松脂の匂いを「こんな匂いだった」と改めて思い出すかもしれません。それから調弦。当時はピッチパイプ(チューニングのための笛)や音叉を使っていたかもしれませんが、今はスマホのアプリでもチューニングメーターが無料でも入手できます。かつてパキパキ音を出しながら動かしたペグが、大人になったらこんなに簡単にスムーズに動くのかと驚くかもしれません※。
弾く曲が思いつかなければ、押入れの奥や実家で眠っていたかつての教本を追ってみるのが良いかと思います。赤鉛筆で花丸がついていたり、注意事項や連絡事項が書いてある楽譜です。当時の月謝袋が挟まっていて驚きがあるかもしれません。
構え方や弓の持ち方も分からなくなっているかもしれませんし、最初はまともな音が出ないかもしれませんが、細かい事は気にしないことにして音を出してみることにしましょう。習い始めた頃の教本の1巻など平易なものからしばらく弾いていると「こんな感じだったかな」と次第に感覚を取り戻せるかと思います。併せて、かつての不愉快な思い出と時には楽しかった思い出も少しずつ溶け出してくることになるかもしれません。
進めていくと完全に忘れてしまっていた曲、教本に印が書いてあって確かに弾いたはずだけれども「こんな難しい曲だったっけ」と思う曲が出てくるかもしれません。そのことをお母さまに尋ねれば自分の知らなかった自分の物語を話してもらえるかもしれません。
しばらく弾いて過去の清算が済んで満足して、ヴァイオリンも再びしばらくの眠りにつくかもしれません。それはそれで良い事と思います。一方、改めて技術を磨き直したり、アマチュアオーケストラで弾くなど子供の頃には想定しなかった新しい楽しみへ道筋をつける気になるかもしれません。そうであれば眠っていた過去の資産が日の目を見ることになります。
※きちんと整備するとペグはそれほど困難なく動きます。昔はそういった整備は行き届いていなかったものです。