音色をつくる最も重要な要素は、演奏技術としては楽器を充分に振動させるボウイングですし、楽器としては胴体の隅々まで振動する構造と言えます。基礎技術とも言えますし、下ごしらえとも言えます。これらを軽視してヴァイオリンの音色を生み出すことはできません。
ですが、スパイス次第で料理は美味しくも不味くもなります。ともすればヴァイオリンの世界ではごくわずかなスパイスが過大評価されスポットライトを当てられる面はありますが、スパイスが音色に影響を及ぼすことは確かです。
例えば、発音をソフトにしたり、やや中膨らみさせたり、左指をしっかり押さえて擦り付けるようなヴィブラートをすると感動的な良い音色に聴こえます(こういった弾き方はロマン派の音楽には使えますし、ある程度こう弾いた方が良いはずです)。ただこれらはスパイスであって、ボウイングやフィンガリングなど基本的な下ごしらえがきちんとできている上でのものです。
駒・魂柱を調整したり、弦の銘柄を替えたり、顎当て・テールピースなどを交換すると音色は少なからず変化します。また弓も毛替えをする職人さんや松脂の銘柄で大きく印象が変化します。弓のネジの滑りを良くするだけでさえ音色は少なからず変化する世界です。けれども、これらもスパイスであって、元の楽器がきちんと音響的に作られていてのものです。
下ごしらえをきちんとした上でのスパイスは絶大な効果を生み出します。それは「魔力」とも言えます。でも下ごしらえは面倒なのでスパイスで表面だけ整えた音色を「魔力」と勘違いすることすらあります。理想の音色を作ろうとする際に下ごしらえによる音色かスパイスでの音色なのか、判断はできるようになっておいて良いと思います。