ヴァイオリンの胴体内部に木くぎが打ってある楽器があります。f字孔から覗くと、裏板の中央あたりに見られる木製のピン(pinと表記されます)です。これも楽器を鑑定する材料になり得ます。
このピンがなぜあるのか不明ですが(コンパスを刺した穴、あるいは、板の厚みを測るためにキリで刺した穴、を埋めたものとも言われます)、古いクレモナの楽器には多く見られる特徴です。アンドレア・アマティ(アマティ一家の最初の人)にも見られるし、グァルネリなどアマティの流れをくむ人々の楽器には多く見られると言われます。ですが、クレモナの楽器でも、ルジェリとストラディヴァリ、ベルゴンツィには見られないと言われる点でも特徴的です。
わたしが触った楽器でも少なからずこの特徴は見られました。ところが、グァルネリと言われる楽器でもピンが見られない場合があります。逆にストラディヴァリと言われる楽器でもピンがある場合があります。これはどういうことでしょうか?
二枚板の楽器は長い間には左右の板の接着が剥がれくっつけ直す必要が出てきます。その時にぴったり左右を合わせるためカンナをかけることがあります。こういう修理歴を経ると、合わせ目中央にあるピンは削り取られてしまいます。グァルネリなどで二枚板の楽器でピンがない場合はこういう理由が考えられます。
逆に、有名な特徴※であるため「クレモナの楽器」に仕立て価値を高めるために、後世にピンが付け加えられることも考えられます。「クレモナの楽器だったら何でもピンがあるだろ」と思った人はストラディヴァリにピンを作ってしまう場合もあるでしょう。
このように修理や後世の改造によってピンの有無は変わってきますので、「ピンがあるから本物」、「無いからニセモノ」と言った単純な判断はできません。ですが、こういった特徴を参考にできる場合があることは知っておいてよいかと思います。展示会などで古い楽器を見るときには、こんなところも観察してみてはいかがでしょうか。
※国内の書籍・雑誌でこの特徴について触れたものは見たことがありませんが、The Stradなどでは普通に記載されている特徴です。
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