前々回、"「良いヴァイオリン」はF1のようなもの"という記事を書かせていただき、楽器の音は演奏家による要素が大きいというお話をさせていただきました。
ですが、ともすれば、「名器を鳴らすには特別な修行が必要だ」と誤解されかねないので、再度お話しさせていただきます。
車に例えることにしましょう。F1レーサーはF1マシンを速く走らせることができます。ですが、F1レーサーがトラックを運転するときは、同じ運転ではうまく走れないはずで、F1にはF1に向いた、トラックにはトラックに向いた走り方があります。あるいは、トヨタ車のオーナーがトヨタ車をうまく走らせることができても、ホンダ車ではぎこちなくなってしまうことがあります。車種やメーカーによって、少しずつ、運転の感覚は異なります。
これと同じことがヴァイオリンでも言えます。よく鳴る弾き方がヴァイオリンによって少しずつ異なります。ヴァイオリンによっては、弓の圧力を強めにした方が鳴るし、ヴァイオリンによっては弓の圧力を少なめにした方がよく鳴る場合もあります。もちろん、弓の圧力だけでなく、弓の速さ、駒からの距離、音の立ち上がりの作り方なども異なります。
ですが、決して特殊な訓練や能力が必要なわけではありません。名器で最大限の性能を発揮するのはかなり難しいのですが、そこそこの能力を引き出すには、うまくその楽器が響くように楽器に合わせた弾き方をすることと、少々の慣れが要るというだけのことです。
自動車には車種ごとだけでなく、一台一台にも運転の仕方があります。同じように、ヴァイオリンもそれぞれに弾き方があります。自分のヴァイオリンの弾き方で他のヴァイオリンを弾いても、必ずしもよく鳴るとは限りません。ヴァイオリンの側の反応をよく感じ取って、そのヴァイオリンに合った弾き方で弾くことがポイントと言えます。
ヴァイオリンごとの違いを実感・体験、あるいは試奏時の参考になれば幸いです。
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