多くのメディアであまりにも神秘的な表現がされているため、ヴァイオリンが物理的な存在であることに気がつかないことがあります。
ヴァイオリンは弦の振動を増幅・変調する、いわば音響機器に過ぎません。音色や音量を決めるのは、あくまでも物理的な振動です。そして、物理的振動を効果的に音にするためには調整が不可欠です。
毎度のことですが自動車に例えることにします。F1で好成績を得るためには、ドライバーの腕、マシンの能力だけでなく、エンジンやサスペンションが想定通りに動くように調整する作業も重要です。どんなにマシンの素質が優れていても、マシンが正しく働かなければ速く走ることはできません。
ヴァイオリンの場合も各々の部品が適切に振動することで最大限の能力を発揮します。振動は、弦→駒→表板→バスバーと魂柱→裏板・・・と伝わります。機械の歯車と同様、どこかで引っかかってしまうと全体的にも適切に振動しなくなってしまうと、イメージして良いと思います。
ヴァイオリンは決して表板だけが振動しているわけではなく、あらゆる部分が振動して音を作り出しています。また、内部は左右非対称のため複雑な振動をするし、共鳴も利用して音を作っています。この振動を適切に、ひいては「良い音」にするのが調整です。
調整の腕前でヴァイオリンの音色は全く変わります。調整する人がどれだけヴァイオリンの物理的振動を知っているか、どれだけヴァイオリンの音を知っているか、音への考え方・・・が、音楽的な音色を作るのでしょう。
楽器による音の差は、調整の要素も大変に大きいものです。楽器の素質だけでなく、調整も含めて、「その楽器の音」になっています。その点に注意して、お店による音色の差を比べてみるとよいかも知れません。
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