古いヴァイオリンのニスについては、殊に「伝説」に惑わされている面があるように思えます。しかし、ここでは「伝説」を意識せず、率直な印象を記すことにします。
少し古い(19世紀末から20世紀初頭あたりのもの)ヴァイオリンのニスを見てみましょう。新作楽器のニスとだいぶ様子が違うのがお分かりでしょうか?ひび割れたり、剥げたり、逆にコーティングのニスが塗られていて少し白く濁りつつピカピカだったりします。
さらに古いヴァイオリンを見てみましょう。1700年代のヴァイオリン。古びの美もあるとは思うのですが、はっきり言ってボロボロです。傷も多いし、ニスも何度も塗り直してあるのでまだらになっていること少なくありません。年月を経ているだけではなく、当時は現代のように大切に扱わなかったのでしょう※。
よくストラディヴァリのニスは「赤」と言われますが、オリジナルニスが全体に残っている古い名器はほとんどありません。300年も手で使う木工品なんだから、常識的に当然です。「これはストラディヴァリです。赤いでしょ」なんて言われても信じてはなりません。
ニスに関する伝説をわたしは信じませんが、ニスに魔性はあると思います。光の当て方で「ゾッ」とする美しさを持つヴァイオリンがあるのは確かです。オリジナルのニスかわかりませんが、メタリックにギラギラした感じがある名器もあります。
ですが、ヴァイオリンのニスもふつうの工芸品と同じく、年月を経れば色は変わるし、剥げるものです。常識の範囲で、ヴァイオリンのニスを観察して見ると、素直に楽器の良さが見えてきますよ。
※ケースには入れず、郵便入れみたいなもの(現代のチェロのスタンドの感じか?)に差し込んでいたと言われます。だから裏板のニスは三角に剥げるそうです。
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