美術の世界では「模写」が行われます。ですが、ヴァイオリンの世界では「先生の言われた通りに弾く」ことは多くても「名演奏家の模写」はそれほど行われていないようです。
美術と違って、演奏はスポーツのようなもので、安易な「模写」は演奏のバランスを崩したり、身体を壊してしまう可能性があるためかもしれません。ですが、それでも時々は名演奏家や名演奏のコピーをすることをわたしはお勧めしたいと思います。
CDを聴いて感じた印象で弾くというような軽いコピーではなく、徹底的にコピーします。「CDに合わせて弾く」、「持ち方・構え方などを含め技術を近づける」、「できる限り楽器も近いものを使用する」といった具合に完全コピーします※1。
軽いコピーは表面的な真似になるため、むしろ害になると思いますが、完全コピーの場合は多くのことを得ることができます。名演奏のテンポ・呼吸はもちろん、音程・音色や演奏の考え方を吸収する手がかりが得られることもあります。
特に「楽器や弓」は見落としがちですが、案外、「演奏」と「楽器」は密接につながっているものです。良い楽器や良い弓で弾けば、名演奏の音色やフレーズの理由があっさりと納得できることも多々あります※2。機会を見つけて、ぜひとも試してみてください。
名演奏家のコピーはぜひ試してみて下さい。そして、やるなら徹底的にやってみて下さい。自分をランクアップさせる手がかりが沢山見つかるはずです。
※1 フィンガリングやボーイングもあわせた方が理想ですが、校訂譜が無ければ難しいと思います。また、名演奏の秘密はフィンガリングやボーイングではないようにわたしには思えます。
※2 わたしの経験ですが、スターンの使用していた弓で弾いたら本当にスターンの音楽になったし、ハイフェッツの使用していた弓で弾けばハイフェッツの音が本当に出ました。また、パガニーニが使用していた弓(Eury schoolと言われます)と近い製作家の弓(Jacob Eury)で弾いたら、楽にパガニーニの曲が弾けました。
→ 一覧ページに戻る → トップページに戻る
|