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それぞれに合うカギは異なる:教える側のモラル、教わる側のモラル3

セクハラは疑いなく犯罪ですし、権力者による弱者へのパワハラも罰せられるべき事です。残念ながらヴァイオリンの世界にはいまだに昭和的な権威主義がまかり通ると思いこんでいる頭の古い人も多く、こういったハラスメントは少なからず起こっている事ですが、そのレベルの事に議論の余地はありません。「そんなつもりはなかった」という人には「立場の違う人に同じことができるか?言えるか?」と質問すれば多くの場合はNGでしょう。

世界は複雑になりつつあります。LGBTや軽度な発達障害などが社会的議論になりクローズアップされるようになりました。こういった個人差・パーソナリティは存在しない事になっていましたが、いずれも当人の努力では解決できないことです。様々な個人差が存在することへの理解や配慮は新しいモラルとなるべきことでしょう。

教える側が意識なく、教わる側の特性に合わない指導をしていることがあります。例えば男女で平均的には体格差がありますが、その一方で男女によらず大柄な方・小柄な方もいます。誰にでも同じ指導をしているのは話になりませんが、男性だから女性だからと単純な区分けもできません。大柄な方と同じように小柄な方を指導しては、無意識のうちに教える側が「成果の出ない指導」すなわち広義のハラスメントをしていることになってしまいます※1。

もちろん身体的な違いの他にも、スキル習得の道筋も人によって違いがあります。感覚的に習得する方も理屈で習得する方もいますし、少しずつ組みあがる方も急にできるようになる方もいます。特に大人の方は社会的バックグラウンドも違えば、練習に費やすことのできる時間もそれぞれです。楽器の差による弾き方の差も少なからずあります。

クラシック音楽の指導は「どの人も同じようにルールに沿った演奏」ができるようにする事ですが、人はかなり個人差があるもので画一的な指導では成果は得られませんし、まして成果が得られないからと暴力を振るったり恐喝をしても解決にはなりません。

もちろん全ての事情や能力に対応できるわけではありません。どんなカギ穴にも合う「魔法のカギ」があれば良いのかもしれませんが、そういうものは存在しないでしょうし、存在しない「魔法のカギ」を信じ込んでしまうと暴力的にこじあけることになるでしょう※2。「ひとりひとりに合った指導」と軽々しく言うつもりはありませんが、「それぞれの方は異なっている」と認めることがハラスメントを避けることにもなるし、効果的な指導になり得ると思います。わたしも、それぞれの方に合うカギを見つけるよう努力しているところです。

※1 海外の文献そのまま教えるケースではこのことは多いものです。ヴァイオリンの大きさはほぼ同じですが、弾く側の身長が20pも違っては当然ヴァイオリンの持ち方も力のかけ方も変わってきます。そのことを意識しない指導では結果は出ないし、それで教わる側が怒られるとしたらあまりにも理不尽な事でしょう。

※2 20世紀はマスの力で全人類に適応しうるサービスを提供しようとした(幻想を与えた)時代だったと思います。だから大規模な暴力が絶えなかったのでしょう。でも多様性が認められるようになった現代では個々人に合ったサービスこそが求められると思います。

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