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音の違い〜ヴァイオリンの弓を楽しむ

もし弾き比べた経験が無ければ、ご自分のヴァイオリンを別の弓で弾く事をお試し下さい。いつもの自分のヴァイオリンから全然違う音が出て驚かれるかもしれません。

音が対照的な弓。弾き方も正反対ですが優劣の差はなく、どちらが良いと言う事ではありません。

弓によってキンキンした音になったり逆にくぐもったような音になったり、G線が鳴り響くようになったり逆にE線が目立つようになったり、音が大きくなったり小さくなったりします。弓によって少なからず音が変わることは案外知られていないようですが、それだけの違いがあるからこそ数千円の弓から何百万円ともすれば一千万円を超える弓まで存在します。また同じ楽器から異なる音色と音楽を引き出すことができるからこそ複数の弓を持つ意味も出てきます。

良い弓は良い楽器と同じように音量が大きくなり、周波数レンジも広がり低音から高音まで出してくれます。音に張りとスケール感が出て、発音も明瞭になります。オールド弓になるとこれに「味わい」が加わります。元々の強さが経年でゆるむためでしょうか。強さとまろやかさが同居したような音があります。強いお酒も長年寝かしておくと、強さはありつつ、まろやかさも兼ね備わってくるのに似ていると言えばイメージが伝わるでしょうか?

単に音の差ではなく、音楽をする時には表情や表現の違いになって現れます。同じフレーズも弓によっては荒々しい表現が導かれたり、飄々とした表現が導かれたりします。弓は「魔法の杖」と言われますが杖によって出てくる魔法が変化するのです。

「ヴァイオリン本体と弓のバランス」「楽器と弓の相性」とも言われます。ともすれば「弓の価格はヴァイオリン本体の3割にすべし」と乱暴な言われ方もしますが、実際には値段は無関係でヴァイオリン本体と弓の音響特性のバランスと思います。

例えば、弓が出しうる周波数レンジよりヴァイオリン本体の周波数レンジが狭ければ、ヴァイオリン本体がボトルネックになって弓の能力を生かし切れません。弓の発音が良くても楽器の発音が鈍ければ・・・などです。「ストラディヴァリにトルテ」「グァルネリ・デル・ジェスにペカット」と言われるような「弓と楽器の相性」があるとしたら、お互いの特性・能力を打ち消し合うのではなく充分引き出し合うこと、と言えることでしょう。

演奏者との「相性」の方が大事かもしれません。良い弓ほど弓自体の振動を生かす弾き方をする必要があり、弓の張り具合から持ち方・持つ場所、弓の寝かし加減など弓毎に合わせて変えてあげる必要があります。演奏者がこれまでの「自分の弾き方」にこだわらず柔軟に対応できることこそが「相性」なのだろうと思います。

音で判断には案外先入観が入りやすいものですが、まずは弓によって音量や音色が違うこと、そして出てくる音楽が変わること、そして演奏者自身が受け身になって弓に合わせることを体験して頂きたいと思います。

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