ここでは「ヴァイオリンの弓の楽しみ方」について記して行きます。道具は使ってナンボのもの、楽器は音を出してのものと普段書いていますし、実際、タクシーやトラックなどの「働く自動車」と同じようにヴァイオリン本体も弓も音を出すための実用的な道具に過ぎません。
その一方でこれも自動車と同じように、弓自体の趣味的・骨董品的な楽しみ、それも弾く楽しみだけでなく触ったり鑑賞したりする楽しみも存在します。造形の美しさは音の美しさとほぼ一致するもので「見える」ようになると「聴ける」ようになるとも言えますし、持った感じでも音の善し悪しはある程度分かります。見た目を含めなぜ名弓は良い音が出るのか製作家の工夫が理解できると道具を大事にする心も生まれることでしょう。
残念ながらヴァイオリニストは道具を粗雑に扱う傾向があって、ミントコンディションだった貴重な楽器を傷だらけにしたり、名弓を折ったことすら自慢しかねない面があります。演奏家が努力して熱演していることを示したいのでしょうが、落とすなどの不幸な事故ならともかく演奏中の破損は単に力の入れ過ぎです(名弓は力学的に合理的にできていて、過度な力を加えなければそうそう折れるものではありません。逆に合理的にできているからオールド弓は壊れずに残ってきたものです)。
「演奏のためには破壊も辞さない」は今となっては高値のつくエレキギター叩き壊したジミ・ヘンドリクスと変わらない行為で、ジミ・ヘンドリクスは偉大なギタリストですが、それは別にして楽器=文化財に対する尊厳の無い蛮行です。世界的に過激思想による蛮行が行われていますが、ヴァイオリニストにありがちな過度な演奏家優位の思想も文化財の破壊の意味では何ら変わりません。
特にヴァイオリン本体より弓については理解が不足しているようです。値段が高いから有名な製作者によるものだから大切にすると言うのは下らないこと。なぜ高値がつくのか理解ができて道具に対する尊厳も出てくるものでしょう。
弓について理解ができると大切に適切に扱えるようになると願っていますし、弓の面白さが伝わればと思います。何回かに分けて「ヴァイオリン弓の楽しみ」をテーマに、見どころ・聴きどころ・触りどころを含め記していきます。