落とすと、音もこわれる - ヴァイオリンの取説
ヴァイオリンは丁寧に扱うようにと言われます。実際、ヴァイオリンの板は外見以上に薄く、表板や裏板で3mm~5mm、横板で1mm~2mmの厚みしかありません※1。一点に衝撃を与えれば簡単に壊れてしまいます。また、駒やコーナーといった突起物もこわしてしまいやすい部分です。
落としたり、ぶつけたりして壊れるのは外見だけではありません。音色も壊れてしまうのです。
ヴァイオリンの内部には魂柱(こんちゅう)という柱が入っています。魂柱は表板と裏板を結ぶ柱で、表板の振動を裏板に伝える働きがあります。そのため、魂柱の材質はもちろん、魂柱を取り付ける場所、取り付ける角度、取り付ける際の突っ張り具合が音色に大きく影響します。
魂柱は取り付ける際に突っ張りすぎると板の振動を殺してしまうため※2、表板と裏板の間にかろうじて留まっている状態でセッティングされていることが少なくありません。従って、落としたりぶつけたりして衝撃を与えると、魂柱の位置がずれ、その結果、音色が変わってしまうことになります。
ヴァイオリンを落としてしまった経験談を二つ。
一度は空港での手荷物検査を終えた後、自分の不注意で検査の台からケースごと床に落としたことがあります。高さは1m程度でした。このときは特に問題は生じませんでした。
もう一度は、ケースの肩掛けの金具が外れて床のコンクリートに(駅の階段だったのです)ケースごと落としたこともあります。このときは、魂柱の位置が変わり音色が変わってしまい、音を戻すのに楽器店の方に苦労をおかけしてしまいました。
運、不運もありますが、衝撃を与えれば音色は変わってしまうと思っておいた方が良いと思います。ヴァイオリンの取り扱いの参考になれば幸いです。
※1 ストラディヴァリやグァルネリなどの厚みがこれくらいです。量産楽器はもっと厚いものが多いと思いますが、いずれにしても大した厚みは無いはずです。
※2 板が半分自由に動きつつ、半分振動を伝える加減のようです。これが接着剤で固定しない理由のひとつと思いますし、調整が必要な理由のひとつでもあると思います。
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