「弓を大きく動かしなさい」と指導されることは多いかと思います。「弓を大きく」というのは、ある意味では正しい面もあるし、長い音で弾いたり音量を大きくするときには必要です。ですが、何でもかんでも「弓を大きく」というのは間違っています※。
うちに初めてお越しになる方の場合は、短い音でも弓を大きく動かし過ぎている事の方が多く、「3cmだけ弓を少なめに」などとお話しすることで、音色が大幅に改善します。
ヴァイオリンは弓で弦をこすることで音が出ます。いわば「弦を引っ掻いている」音です。弓を大きく使い過ぎると、弓の速度が上がり過ぎて、きちんと弦を引っ掻くことができなくなります。「カヒュカヒュ」といった音は弦を引っ掻くことができていない音です。
弓を大きく動かし過ぎている状態は、弓は弦の上でスリップしている状態です。自動車に例えるなら、タイヤがスリップするのを防ぐには速度を落とすか、タイヤを上から押さえつける(レーシングカーならウィングでタイヤのグリップ力を増す)事になります。
弓がスリップするときは、弓の動かす大きさ=弓の速度を減らすか、上から押さえつける=圧力をかけることで、スリップを減らすことができます。ただ、むやみに圧力を増すと逆に弦の振動を止めてしまうなどの弊害が起こります。弓を使う量の調整の方が先に来るべきでしょう。
良い音を出すためには、弓の大きさと圧力の適切な加減が必要です。大きければ良いわけではないし、短ければ良いわけでもありませんが、短い音で浮いたような音がする場合は少しだけ弓を小さく使って弾くことをお試し頂ければと思います。
※ハイフェッツや若い頃のメニューインらは非常に大きく弓を動かしています。これはトルテやペカットなど性能の良い弓=グリップ力の強い弓と、グァルネリ、ストラディヴァリなど敏感な楽器、更にガット弦(ガット弦は軽い弓の圧力で弾けます)を使っているからできることと思います。実際、この組み合わせだと極めて大きい弓で何ともなく弾けます。
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