ヴァイオリンや演奏技術について根本的に勘違いしている場合があります。勘違いしていては、うまく弾けるようにはなりませんし、間違った方向にそれていきます。残念ながら、クラシック音楽のイメージを保つためのメディア戦略や、指導者自身の立場を守るためなどにより、ヴァイオリンの世界は勘違いに気がつきにくい環境にあります。
以下はわたし自身が勘違いしていたことですが、ネットの掲示板でもよく見られるため、自戒の意味を含め挙げていきたいと思います。
【ヴァイオリンは難しい】
最大の勘違いですが、多くの書籍やメディアで大前提になっています。わたし自身、どうして外国の演奏家のような音が出せないか悩んでおり、20年近くにわたって「ヴァイオリンは難しいため」と思って、あれこれ複雑なことをしていました。しかし、ある人に「そんなにこねくり回さず、ひとつひとつの音はただ単にまっすぐの音で」と指摘されて、難しく考え過ぎていたとやっと気がつきました。
評論家や指導者は複雑で難しいことを言った方が有難がられるし自己満足できます。メディアは難しく偉大なことと宣伝した方が集客できます。そのためにクラシック音楽や演奏技術は極めて複雑で難しいものと思われがちですが、単純な作業の組み合わせと考えるのが良い結果になるようです。
【ヴァイオリンは不自然な姿勢】
非常に多い誤解です。わたし自身も勘違いしていました。国内の入門書やヴァイオリンをあまり弾かない人が書いた書籍などによく見られ、ヴァイオリンは不自然な姿勢で弾くことが前提になってしまっています。
むしろ驚くほど自然な姿勢で弾く楽器ですし、だからこそ400年以上ほとんど変わっていないのだと言えます。多くの名演奏家が顎だけでヴァイオリンを支えることを完全否定しているように、ヴァイオリンは左手も使って支えるし、身体の中心に対して左右均等な開き角であるべきです。不自然な姿勢と思っている限り、うまくなることはできません。
【肩こりや痛いのは仕方ない】
日本人ヴァイオリニストにありがちな音として、つぶれたような、のどだけで歌っているような日本人独特の音があります。左指を強く押さえ、弓を押しつける弾き方から来る音で、この弾き方が肩こりや身体が痛くなる原因になります。
わたし自身、かつてはそういう音でしたし、歯を噛みしめすぎていたし、肩こり・背中、手などの痛みは仕方ないと思っていました。これは完全な思い違いでした。クレモナの名器など良い楽器を弾くと分かりますが、ヴァイオリンは力一杯弾く楽器ではありません。肩こり、身体の痛みは弾き方を根本的に勘違いしているためと言えます。
【練習を続ければいつか良い音になる】
複雑なパッセージを弾きこなすのは経験年数とある程度比例しますが、良い音で弾けるかどうかは経験年数とはあまり関係ありません。これも、わたしは長年気がつかず、練習を続ければいつか良い音が出せるようになると思いこんでいました。
良い音で弾く技術というのは、絵で言えば「まっすぐに線を引く技術」です。多少の練習は必要ですが、まっすぐに線を引くこと自体はそれほど難しくありません。ですが、そもそも、まっすぐに線を引こうとしていなければ、何年練習してもまともな絵は描けません。
ヴァイオリンでは「適度な加減で音の最初から最後まで同じ音を出す」ことが良い音で弾く方法です。あらゆる場面で正確にコントロールをするのは困難ですが、ゆっくりなら経験年数とは関係なくそれほど難しいことではありません。
【知識を得れば上達する】
もちろん最低限のルールを知るのは必要ですし、知識が上達の参考になる場合はありますが、知識偏重はむしろ有害です。かつてはわたしも書籍に書いてあることは正しく重要な秘訣と思いこんでいました。
特にヴァイオリンを弾かない人による演奏技術の記述は間違いがよく見られます。書籍での知識だけでなく、DVDやCDなどの映像や音とを組み合わせること、自分での実践を組み合わせて、総合的に判断するべきです。
【うまく弾けないのは自分の腕のせい】
演奏技術だけでなく、ヴァイオリンや弓の方に問題がある場合も多いようです。発音が悪いのは弓の毛の張り方や楽器の調整の具合もありますし、音程が悪いのは弦が古かったりネックや指板の調整のためということもあります。研いでいない刃物で無理に切っているようなもので、きちんと整備してやるとあっさり弾けるようになる場合もあります。
これは楽器や弓の値段とは関係ありません。道具はきちんと整備して使うべきというだけのことです。わたしはひどい状態で使っていたわけではありませんが、微調整で大幅に弾きやすくなることは最近まで気がつきませんでした。
勘違いを列挙してみました。根本的な思い違いをしていないかのヒントになれば幸いです。
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