最も良い音、また最も高額なヴァイオリンとしてアントニオ・ストラディヴァリとグァルネリ・デル・ジェスはよく知られています。そして多くの製作家が長年この名人に近づこうと努力し続けています。
鑑定や製作のために、この両者を扱った図鑑は多く出版されています。ストラディヴァリやデル・ジェスのみを扱った専門図鑑、古いクレモナのくくりのもの、著名コレクターのコレクションの目録的なものなどです。
ここでは最近(2010年)に出版されたストラディヴァリの大判図鑑と、ちょっと前(1998年)に出版されたデル・ジェスの大判図鑑をご紹介することにしましょう。非常に高額な書籍(ストラディヴァリが30万円程度、デル・ジェスが7万円程度)で普通の愛好家向けではありません。ですが、いずれも現在のところ両製作家に関する最も詳細なデータが掲載された書籍といえます。
ストラディヴァリは148挺、デル・ジェスは25挺が掲載されています。それぞれの楽器について、文章による来歴や特徴、表板側、裏板側、左右横板側、スクロール前後左右、実物大の表板側・裏板側の写真、大きさや厚さの詳細な測定データ、アーチ形状を示したデータが掲載されています。
デル・ジェスの図鑑には製作上の特徴について比較的詳細な論文が、またストラディヴァリの図鑑にも簡単ではあるものの年代毎の特徴などについての論文が掲載されています。
原寸大の写真が掲載されています。
ストラディヴァリの図鑑にはf字孔のアップなども掲載されています楽器もあります
横板やスクロールの写真も実物大です
各部の測定データも掲載されています。
楽器店や鑑定家、製作家の間ではこれくらいの情報は共有されていると言うことになります。もちろん、弦楽器専門店や鑑定家はもっともっと詳細な情報を持っているものです。
こういった専門図鑑で検証すると一般的に流布している情報は事実と相容れない事も少なくありません。例えば、ストラディヴァリは赤いとされますが赤くない楽器もあります。デル・ジェスは造作が荒いとされますが精緻な楽器もあります。
他の製作家についても同様ですが、あまりに様々な情報が飛び交っています。もちろん事実の情報もあるし、うわさ話や伝説は楽しいのですが、真実を知るためには可能な限り一次情報に近い情報を信用するのが研究態度としては適切でしょう。
※掲載の楽器のうちいくつかは実際に手に取ったり音を出したりしたものもありますし、ガラス越しで見たものもあります。これらの図鑑は可能な限り実物に忠実なプリントされますが、写真と実物は色の印象が違うものもありますし、色だけでなく写真では荒削りに見えたデル・ジェスのスクロールが実物では端正な造形に見えたものもあります。図鑑と実際に見る印象が異なる場合もあることには注意が必要です。