ヴァイオリンの音色の半分は調整によるものです。調整次第で、キーキー騒音を立てる忌まわしい箱にもなるし、蠱惑の音色を奏でる魔法の箱にもなります。ここではヴァイオリンの調整技術に着目して、音に影響を与える要素についてを何回かに分けて書かせて頂きます。
ヴァイオリン弾きは音色に敏感なイメージがありますが、実際は案外音色に関して無頓着に思える事は少なくありません。魂柱について神経質でも駒の傾きに気を配っていなければ音色を聴いていない事になります。楽器の値段や製作者名を自慢げに語っても調整具合に語る所がなければ音色が分かっていない事を意味します。
歴史に残る名ヴァイオリニストの逸話では、美音家として知られるエルマンやグリュミオーは毎日のように楽器の調整をさせていたと言われます(きっと自分でもあれこれ試したことと思います)。その逸話を聴いた時に「演奏技術だけでなく、だからこそあの音が出たのだ」と納得しました。望む音が出るように楽器を調整する/調整してもらうことも演奏の腕前のひとつです。
何をやっても音が変わるのがヴァイオリンというもの。弦や松脂による音色の変化は知られていますが、顎当てでも肩当てでも音は変わりますし、そのネジの締め方でも音は少なからず変化します。汚れを拭き取るだけでも音は変わるし、温度湿度でも音が変わります。これらを総合的にバランスを取るのが広義の「調整」と言えます。
普通のユーザーにできること楽器の技術者に任せるべきことの両面がありますが、ここでは普通のユーザーにとって試すことができる要素に限定しつつ、多少はリスクのある方法についても簡単に紹介して、楽器の音色を作る要素〜すなわち調整についてお話させて頂きます。具体的には次回以降、カテゴリごとに書かせて頂きたいと思います。
自分の行動が結果に出るのは楽しい事。理想の音を作る手掛かりにして頂ければ幸いです。