弾く人にお勧めなバッハのCD
ヴァイオリニストにとって、バッハの無伴奏ソナタ・パルティータは大変思い入れを持つ曲です。この曲の良さは、聴くだけでは分からないと思います。少しでもヴァイオリンが弾けるのでしたら、ぜひ弾いてみて欲しいと思います。
弾かない人にとってみれば眠い曲かも知れません。ですが、弾いてみると、ハーモニーの美しさ・豊かさ、ヴァイオリンとは思えない音の響きに「神様の存在」を感じることがあります。音の響きが他の曲とは全く違うし、音程やボーイング(弓づかい)に気遣えば、気遣うほど美しくなる曲です。
素晴らしいのはシャコンヌやフーガと言った難しくて有名な曲だけではありません。ドゥーブルと呼ばれる短い変奏曲のように、譜面は簡単そうなものでも、美しい「音楽」を弾く側は感じることができます。
この曲に関しては単純にこの演奏が良い、お勧めとは言えません。どれも聴く価値があります。その中で演奏する側にとって、特に勉強になるものをご紹介することにします。
ヘンリク・シェリング グラモフォン
ヘンリク・シェリングは20世紀中頃を中心に活躍したヴァイオリニストです。このCDは彼の代表的な演奏のひとつであり、バッハのソロソナタ&パルティータの代表的な演奏のひとつでもあります。
ゆったりとしたテンポ、どの音も整った音、和音は同時に聞こえるように弾いていること、が特徴です。典型的なクラシック音楽と言えるたっぷりとした豊かな演奏です。
あまりに整いすぎているくらいですが、整然とした音が集まると音楽としての力や迫力になります。こういった表現方法は、ある意味、音楽家にとっての理想的な表現です。
最近では、シェリングの人柄のマイナス面が暴露されていますし、DVDなどでも「気取ったおやじ振り」が見られますが、この演奏だけでもそんなゴシップ的なことは吹き飛んでしまいます。
この演奏はおそらく1734年のストラディヴァリを使っていますが、素晴らしく良い状態かつうまく調整されたストラドと思います。音色も大変に豊かでリッチです。そこも聴き所です。
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→無伴奏Vnのためのソナタ&パルティータ(シェリング)
ナタン・ミルシテイン グラモフォン
ナタン・ミルシテインは20世紀の前半から後半にかけての長期間活躍したヴァイオリニストです。ピアニストのホロヴィッツとの共演でご存じの方も多いかと思います。
正直言って、初期の録音に聴くべきものはありませんが、晩年、特に1970年以降になって切れ味が鋭くなった、まれに見る演奏家です。
このCDも69歳になっての録音ですが、一言で言うなら「かっちょいい」演奏です。少し速めのテンポで気高く、決まるところはバシっと決まります。もちろん、歳だからと言って演奏がよろめくようなことは全くありません。
近年よく見かける「売れ線」をねらった演奏と全く違う演奏です。媚びないとは、テクニックとは等、多くを学ぶことができる、ひとつの理想的演奏です。
ミルシテインは親切な人では無かったそうですし、LDやDVDでも神経質・気取り屋な人柄が見え隠れします。ですが、この演奏はいい意味での気取り=気品の高さを感じます。
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→無伴奏Vnのためのソナタ&パルティータ(ミルシテイン)
ヨーゼフ・シゲティ ヴァンガード
ヨーゼフ・シゲティは20世紀の前半に主に活躍したヴァイオリニストです。このCDは昔は極めて評価の高かった録音ですが、近年は技巧の拙さから酷評されている録音でもあります。
確かに、「老醜」を感じる面はあります。音は汚いし、音程も確かではありません。わたしも10代の頃に聴いたときは「どこが良いの?」「下手じゃん」と思いました。
この演奏のどこに価値があるのでしょうか?この曲を弾いたことのある人なら、きっと分かると思います。この曲への思いのたけを込めて弾いて、スマートにまとめようとしなかったところがすごいのです。
おそらくテクニックのある人でも、一音一音を思い入れいっぱいに弾けば、こんな演奏になるのではないでしょうか?20世紀美術のような、格好を付けない自由な表現方法とも言えるでしょう。20世紀の名画のようにものすごい量の情報がこの演奏からは聴きとれます。
わたしは、ヴァイオリンを弾かないリスナーにはこのCDは勧めません。パールマンあたりの方がずっと気持ちよく聴けるでしょう。ですが、プレイヤーには是非聴いて欲しい。表現のひとつのあり方を学ぶことができます。
なお、このCDはラジカセ向きではありません。ラジカセではアラばかり聞こえます。低音が充分出る装置で大きめの音量で聴くことをお勧めします。速い弓で名器をきちんと鳴らしていることが分かり、単なる下手ではないことがわかりますよ。実演では違う印象の音と思います。
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→無伴奏Vnのためのソナタ&パルティータ(シゲティ)
クリスティアン・テツラフ EMI
クリスティアン・テツラフは現在活躍中のドイツのヴァイオリニストです。
このバッハの演奏は最近のバロック的な演奏ですが、普通に聴いても、非常に整った美しい演奏です。さすがは近代的な演奏です。
このCDの特徴は、音が作る風景が非常に色彩豊かに見える点です。ディズニーのファンタジアをご覧になったことがありますでしょうか?音楽を映像にした映画ですが、この演奏はファンタジアのように音を聴くだけで色彩の変化が見えてきます。
現代の演奏家らしくテクニックは確実ですし、強いアクもありません。ちょっと聴いただけでは、さらっと流れてしまうようにきこえるかも知れません。ですが、その中に非常に多くの表現が入っています。
モノトーンのイメージがバッハはにはあるのですが、この演奏は色彩あるいは体温を感じさせます。そこが聴き所です。
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→無伴奏Vnのためのソナタ&パルティータ(テツラフ)
併せて、ディズニーのファンタジアもご紹介しておきます。ファンタジア、ファンタジア2000ともにお勧めです。ディズニーを子供向けと思ってはいけません。何度見ても発見のある、映像作品です。クラシックのプレイヤーにこそ見て欲しいと思います。
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→ファンタジア
→ファンタジア2000
ギドン・クレーメル EGM
ギドン・クレーメルは現代の代表的ヴァイオリニストのひとりです。演奏スタイルは独特で、クラシックの音楽でもともすれば現代音楽のように聞こえてしまう表現と、抜群のテクニック・音色が特徴です。
クレーメルの弾いたバッハは旧版が、評論家には大変に高い評価でした。ですが、わたしには唐突なアクセントや間があまりにも不自然に感じます。評論家は力強さだけを聴いているように思えてなりません。
新盤でもクレーメル独特の不自然さはあるものの、それ以上に神経質なデリケートな感じが非常に感じ取れるのが特徴です。シェリングとは正反対で、細い線画的なモノトーンの世界です。
音もやせて聞こえるし、あまりの神経質さに音の作る風景に息苦しさを感じる面もあります。また、現代アートと同じような、都会の孤独・寂しさを感じる演奏です。
これらはこれまでのバッハの演奏にはない風景ですので、その点で特徴的ですし、勉強になります。
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→無伴奏Vnのためのソナタ&パルティータ(クレーメル)
ヤッシャ・ハイフェッツ RCA
他のページでもご紹介しているますが、「ヴァイオリンの神様」ヤッシャ・ハイフェッツの演奏です。
この演奏は、あまり色気が無いにもかかわらず、極めて迫力のある演奏です。バッハは建築のように例えられることが多く、「音の構築物」という印象があります。
建築の部品ひとつひとつには美しさを感じることはあまりありませんが、全体として堂々とした迫力など、何かを感じさせる面があります。それと同じく、全体で極めて強い印象を感じさせる演奏です。また、構造ひとつひとつがクリアに見える演奏でもあります。
ちょっと特殊な演奏だからこそ分かりやすい面があります。やはり、バッハを勉強する際にもハイフェッツの演奏ははずせないと思います。
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→無伴奏Vnのためのソナタ&パルティータ(ハイフェッツ)
アルトゥール・グリュミオー フィリップス
このCDも他のコーナーでご紹介しているものです。グリュミオーは20世紀中頃を中心に、特に美音と品のある演奏を特徴としたヴァイオリニストです。
この演奏はグリュミオーの数多くあるCDの中でも、特にエレガントかつ美しい音を特徴とする演奏です。逆に、これを聴けば「エレガントな演奏」とはどういう演奏か、分かると言えます。
エレガントとは、弱々しかったり、ふやけたものだったりするわけではありません。芯には強さを持っていてはじめて、優雅にエレガントになれるものと思います。それを感じ取るには最高の演奏です。
無伴奏ソナタ&パルティータの舞曲的要素を重視した演奏で、スマートかつ大変に聴きやすいものです。リスナーとして聴くときには、わたしは大抵これをかけています。リスナーとしても是非聴いてみてください。
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→無伴奏Vnのためのソナタ(グリュミオー)
→無伴奏Vnのためのパルティータ(グリュミオー)
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