言い切ってしまって良いと思います。全てのヴァイオリニストが目標にする人物がいます。ヤッシャ・ハイフェッツ(Jascha Heifetz)です。
ハイフェッツは主に20世紀前半から中頃にかけて活躍したヴァイオリニストで、「ヴァイオリニストの王様」、「ヴァイオリニストの神様」とまで言われる人です。ヴァイオリニストでハイフェッツの名前を知らない人はいないと言っても過言ではないでしょう。
一般的には「冷たい」「機械的」と言われますが、そんなことはあまり重要ではありません。独特の音楽の勢いと速いテンポ、圧倒的に技巧的に聞こえる速いパッセージ、そして甘みの少ない即物的な音色で、ロマンティックに聴かせます。
決して甘口のロマンティシズムではありません。かなり辛口です。しかし、無感情ではありません。非常に凝縮された感情です。
ハイフェッツというと「完璧」とよく言われますが、しばしば音を外していることもあります。ヴァイオリンの技術的には現代のヴェンゲーロフやレーピンなどの方が上手いと言えるでしょう。
テクニック以上に音楽的な勢いと独特の音色。これがハイフェッツでしか聴けない音楽です。
ツィゴイネルワイゼン 超絶技巧名演集 RCA |
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ハイフェッツの代表的なCDとして有名です。チゴイネルワイゼンのCDは非常にたくさんありますが、このハイフェッツのものはCD選評などでも高い評価を得られているものです。
聴いていただければ分かりますが、技巧とパッションとが高い次元でバランスが取れているのが高い評価の理由なのでしょう。
聴く側さえも巻き込んでいくような勢いが、他にない特徴ではないかと思います。スイングやロックの名曲と同じように自然に体が動くような演奏です。
チゴイネルワイゼン以外の「序奏とロンドカプリチオーソ」や「詩曲」も気持ちよく聴ける演奏です。
※チゴイネルワイゼンが1951年録音のものがお勧めです。それより古いものは、あまりにもあっさりしているように思えます。
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→ツィゴイネルワイゼン 超絶技巧名演集
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ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲&スコットランド幻想曲 RCA |
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ブルッフのヴァイオリン協奏曲も素晴らしい演奏なのですが、お勧めしたいのはスコットランド幻想曲の方です。曲の知名度は高くはないし、名曲でもありません。
ですが、ハイフェッツの演奏で聴くと、「何て良い音楽なのだろう」と思えます。少なくともわたしはハイフェッツの演奏で、スコットランド幻想曲のおもしろさが分かりました。
また、ハイフェッツは美音家と言われることはあまりないのですが、この演奏の音色は絶品です。
カップリングの「ブルッフのヴァイオリン協奏曲」「ヴュータンの5番」も素晴らしいです。
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→ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲&スコットランド幻想曲
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バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ&パルティータ(全曲) |
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ハイフェッツのソロ・ソナタ&パルティータは、一般的にそれほど高い評価を得られているわけではありません。シェリングやグリュミオー、最近ではクレーメルやテツラフの方が、バッハらしい演奏かもしれません。
ですが、ハイフェッツの演奏でフーガを聴くと、各声部がはっきり浮かび上がって聞こえます。これが、他の演奏に無い特徴です。
もちろんシャコンヌをはじめとして、フーガ以外も曲の構造がよく分かる演奏です。
音色は素っ気ないし、テンポの速さが気になる面もあります。解釈的にも古めかしい面もあります。
ですが、ソロ・ソナタ&パルティータを学ぶ上では音楽的な構造を知っている必要があります。それが一番クリアに見える演奏です。この曲を学ぶ人にはお勧めです。
※写真の盤は古い輸入盤ですが、国内版の新しい盤が出ているようです。
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→バッハ:無伴奏Vnのためのソナタ&パルティータ
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