ヴァイオリンのニスに関しては、あまりにも伝説と賛美と諸説が入り交じっているために、うかつな話ができない部分です。音に対する影響についても「下塗りが重要」「古い楽器はニスが減っているから良い音」「コーティングニスは音を変えない」など様々な説があります。
音に関する話はともかく※1、確実に言えることは「使えばニスは減る(剥がれる)」と言うことです。「ニスの保存」の意識があまりにも強い反面、「使うことで減る」ことには関心が薄いようです。
ヴァイオリンにはネック以外の部分にニスが塗ってあります。そして、左手や首の当たる部分のニスは汗や身体と擦れ合うことでニスが剥がれたり、摩耗したりします。また、布で磨けばニスは減るし、研磨剤の入ったポリッシュを使用すればなおさらです。
結果的に、出っ張った部分は減りやすく、次のような窪んだ部分にニスが残ることが多いようです。
・表板・裏板:コーナー付近、指板や弦の下(表板)
・横板:Cバウツ周辺
・スクロール:奥まった部分
きれいに見える楽器は、ほぼ間違いなく後世のニスによる補修がされています。「ストラディヴァリは赤い」と言われますが、ほぼ全面に残っているストラドは1721年の「レディ・ブラント」くらいなものでしょう※2。ストラドも含めて、大半の古い楽器は何度も塗り直されています。
使われてきた楽器は相応の傷みがあって当然なのです。古いヴァイオリンや古いヴァイオリンの写真を見るときには、ニスの残りやすい部分と減りやすい部分にも注目してみてはいかがでしょう?コンディションや修復歴などを論理的に考える手がかりになるかもしれません。
※1 わたし自身はどんな種類のニスでも音を変え得ると考えています。ニスに質量や弾性がある限り、板の振動は変わり得るためです。「質量の少ないニスなら振動への影響は少ない」「振動の速いニスなら高音を妨げにくい」「柔らか過ぎて振動の遅いニスは高音が出にくくなる」「固いニスなら振動を阻害する」などと考えられるのではないでしょうか。ニスと音の良し悪しに関しても「適度な加減」が大切で「だから論」は通用しないはずです。
※2 1716年のストラディヴァリ「メシア」は真贋に関して議論が多いため、メシアをベースに考えるべきではないと思います。
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