長年ヴァイオリンを習ってきた方でも修理中の様子を見たことのある方は少ないかもしれません。言わばヴァイオリンの修理は手術のようなもので、開腹手術で人間の中身を見た事のある方はお医者さん以外では多くないはずです。また、見ることを望まない方もおられるでしょう。
ヴァイオリンについても、バラバラに分解された修理中の姿を見ることに抵抗を感じる方もおられるかと思います。でも、その反面ヴァイオリンがどういう構造で、どのように修理調整されて、どんな売られて方をして、と言った知識は、直接その作業を自分で行わなくてもヴァイオリンを深く知る上では有益です。それが引いては演奏にもつながることでしょう。
メンテナンスについては多くの弦楽器工房が修理の参考にしているViolin Restorationという専門書籍がありますし、一般書としてヴァイオリンのメンテナンスについて記された和書もいくつか出版されています。ただ、文章による説明が多かったり、写真も具体的な実際の作業についてのものではなかったりして、実際の光景が見られないことが少なくありません。
最近(2015年3月)に出版された書籍に「ヴァイオリンマニュアル日本語版」があります。これは、これまで現場でなければ見ることが難しかったヴァイオリンの実際の姿を見ることができる点で得る事の多い書籍と感じました。
文章は時にはジョークを交えた親しみやすい文体で比較的簡潔に書かれていますが、実際のメンテナンス作業の様子を写したカラー写真が貴重で、大いに参考になります。この書籍の写真のような光景は弦楽器工房で日常的に見られることです。
ヴァイオリンのメンテナンスに多くのページが割かれていますが、ヴァイオリンの歴史や楽器についての用語、楽器製作の流派、買い方・鑑定についても記されています。その点で一般的なユーザーにも有益かと思いますし、ヴァイオリンを教える方であればメンテナンスを弦楽器工房に任せるとしても、この程度の内容は知っておくべきと思います。
一方、積極的な方は自分でメンテナンスを行う方もいらっしゃるかもしれません。自動車やバイクのように自分の楽器をいじる楽しみもあるかと思います。この書籍のやり方が全てではないし弦楽器職人さんのノウハウが要求される技術であることは念を押しておきたいと思いますが、自分で修理を行う方にはこの書籍は工具や作業内容についても具体的に示されていて、とても有益でしょう。
150ページほどのさほど厚くない書籍ですが、とても盛りだくさんでいささかまとまりに欠けるとも言えます。ですが、滅多に見られないヴァイオリンの実態を知る上でとてもお勧めできます。
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→ジョン・ゴスリング、 マーカス・コーリー「ヴァイオリン マニュアル 日本語版」