楽器のサイズ:楽器鑑定の知識


ヴァイオリンの各部分の大きさが鑑定の手がかりになることがあります。標準的なサイズとして、胴体の大きさ(裏板の長さ)が355mmで、ストップ長(胴体上部から駒まで距離)が195mmと近年よく言われますが、当然これだけで良い楽器の判断ができるわけでも、真贋の手がかりになるわけでもありません。

ヴァイオリンのサイズには幅があります。特に古いヴァイオリンのサイズは「いろいろ」です。例えば、グァルネリ・デル・ジェスについての専門書※によると、掲載25挺の楽器のサイズは下記の通りです(単位はmm)。

製作年
通称
胴体の長さ
(裏板)
ストップ長
1727年頃 Dancla 354 200
1729年頃 Stretton 353.2 194.5
1730年頃 Kreisler 353.5 197
1731年 Baltic 351 190
1734年 Violon du Diable 350.5 191
1734年 Haddock 349
NA
1735年 King 351.5 192
1735年 D'Egville 350 191
1735年 Plowden 350.25 191
1737年 King Joseph 352 193.5
1737年 Stern,ex Panette 352 193
1737年 Joachim 352.5 196.5
1738年 Kemp 352.5 192.5
1739年頃 Kortschak 351.25 192
1740年 Ysaye 352.75 195
1740年頃 Heifetz,Ex David 354 198.5
1741年 Kochanski 351.5 192
1741年 Vieuxtemps 354 198
1742年 Lord Wilton 352 192.5
1743年 Paganini(Canon) 354 197.5
1743年 Carrodus 352.5 191
1743年頃 Sauret 351 196
1744年頃 Doyan 350.5 191
1744年 Ole Bull 352 194.25
1745年 Leduc 354 188
かなり大きなばらつきがあることが分かります(グァルネリは一般的には小さめの楽器が多いと言われます)。一番上の1727年Dancla(エア・バリエを作ったダンクラが使用していた楽器)はストップ長が長いし、一番下の1745年Leducなどはとてもストップ長が短いのですが、これはヘンリク・シェリングの使用していた楽器です。

単純に、胴体とストップ長がXXXmmだから良い楽器と言えるわけでもないし、ましてホンモノかニセモノをサイズだけで判断できるわけでもありません。

真贋の判断の手がかりにするには、板の厚み(古いイタリアの楽器は薄くできていることが多いし、表板や裏板はふちが薄く、中央が厚い傾向にあります)、横板の高さ(古いイタリアの楽器は、スクロール側が短く、テールピース側が長い傾向にあります)なども含めて各部のサイズから製作家が何を意図していたかを考える必要があります。

くれぐれも、355mmだから195mmだからと思うべきではありません。適切なサイズだからと言って良い音が出る保証はありませんし、逆にややイレギュラーなサイズでも良い音の出る楽器はたくさんあります。胴体が360mm程度の大きな楽器でも良い音の楽器はあるし、胴体が350mmを切るような小さな楽器でも低音が鳴り響く楽器もあります。

※ピーター・ビダルフら 1998 Giuseppe Guarneri del Gesu


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