「好きで」とは限りません:ヴァイオリン教師という仕事8



ヴァイオリンに限らず、芸事の先生は「好きでやっている」というイメージで見られることが少なくありません。「好きなことを仕事にできていいね」などと言われることが時々ありますが、そのように言われるといささか複雑な気分になります。

ヴァイオリンの先生が必ずしもヴァイオリンやクラシック音楽が好きなわけでも、楽器や名演奏家、クラシック音楽の歴史について詳しいわけでもありません。

わたしは、幸いヴァイオリンが好きでいられていますし、演奏家や楽器についても興味を持ち続けることができています。ですが、これまでヴァイオリンに憎悪の念を抱いたことも、実際にほとんど弾いていなかった時期もあります。クラシック音楽界全体の持つ雰囲気に嫌気がさすこともあります。

わたしを含め多くのヴァイオリンの先生は、3歳〜6歳といった子供の頃から始め、「軽音楽(ポップスなどのこと)は耳が悪くなるから聴くな」と言われて育ち、毎日セブシックやら音階やらの練習をし、という経験を積んできているはずです。

子供の時からあまりに「ヴァイオリン、ヴァイオリン」と言われ続けたため、ヴァイオリンについて自分から知ろうとする意欲を失ってしまったケースは多々みかけます。それゆえ、演奏の技術については知っているけれども、名演奏家や名器・名弓など楽器に関しては先生があまり知らないことがよくあります。

もちろん、それで良いとは思いません。ヴァイオリンは歴史の長い楽器ですし、多くの人々を魅了してきた楽器です。ヴァイオリンの演奏技術はもちろん、楽器としての魅力、名ヴァイオリニストについて、ヴァイオリン音楽の面白さなども含めてお伝えするのが、(少なくとも大人に対する)ヴァイオリン教師の仕事と思っています。

いくら仕事であっても、良い意味でのアマチュアリズム(アマチュア=愛情)を持ち続けて、習う側が最終的に楽しんでいただけるようにお伝えすること※。それがヴァイオリン教師の本質的な仕事と考えています。

※ 表面的・刹那的な「楽しさ」のことではありません。本当の意味で楽しめるためには、時には厳しくある必要もあります。

←Back Next→

始め方がわかる
トップ

(C)Caprice