音色の変化として弓を駒寄り/指板寄りで弾く事がしばしば言及されます。
駒寄りではオーボエのような音、指板寄りではフルートのような音と言われたりします。またパガニーニのカプリース9番のように、E線とA線を指板寄りで弾いてフルートの音を、G線とD線はホルンの音をと指定のある曲もあります。
パガニーニ カプリース9番冒頭の動画
(ここではホールで聴くような音にするためリバーブをかけています)
駒寄りは倍音が多く、指板寄りは倍音の少ない音と言われる事もあります。倍音が多いから駒寄りは華やかな音と言われる事もあります。これらの見解に異を唱えるわけではありませんが、音楽表現として最大の違いは「音の張り具合」と考えています。駒寄りは張りの強い音が指板寄りは張りの弱い音が出ます。
指板寄りを弾いた音と駒寄りと弾いた音
(ツィゴイネルワイゼンより:ここではミュートを外して弾いています)
前者が張りの弱い音、後者が張りの強い音になる事がおわかりでしょうか?
「音の張り具合」はあまり言及される事が無いように思えますが、音楽をする上で重要な要素です。張りの強い音は緊張感の強い音とも言え、張りの弱い音は弛緩した音となります。張りの弱い音は甘美な音ですが、例えるならボサノバのボーカルのような感じです。いくら柔らかい甘美な音を求めるからと言って、オペラの歌い方のイメージであるクラシック音楽のソロ曲を全て指板寄りで弾くのはいささか滑稽に思えます。
そう言った意味から単純に「ピアノの時は指板寄りで、フォルテの時は駒寄りで」と言うのはやや乱暴に思えます。緊張度の高いピアノの表現もあるわけで、ピアノ=緩い音ではありません。もちろんフォルテも何でもかんでも駒寄りで弾くわけでもありません。
音や音楽に張りを持たせたくない時に指板寄りを弾くと効果的と言えるでしょう。虚無感、死、うつろな表現、空虚な音を出す時などには指板寄りが効果的に思います。また、力強さ、充実感、生の喜びなどを表現するには駒寄りが有利な場合があります。
※音響分析ソフトで見てみますと、倍音構成はそれほど変わらないように見えます。波形は変わるようです。
※指板寄りで弾く場合も、左手のポジションがハイポジションになる時は、やや駒に寄せた方が音をつぶさないで済む事が多いかと思います。